2015年7月23日木曜日

BRM718宮城600 フラット600栗駒石巻 完走記(2)


 はいどうも、漬物さんです。

前回は湯屋処まつばらさんあたりから発症した、胃の入り口を焼くような痛みに苛まれながら PC4 に到着。レッドブルで食道に引導を渡してしまい、さあどうしましょというところまででした。

 走行ログを見る限りここから先女川までの速度はかなり落ちてます。すでに DNF の文字も頭をよぎっている状況から、さて、どうリカバリしていくのか―






 太田胃酸だろうが水だろうが、胃に物が入ると胃の入口あたりが悶絶するほど痛いという状況下が続く。耐えればなれるんじゃないか。今はまだ深夜の0300時であり、そんなに水分を摂取しなくても何とかなる。耐えろ…耐えろ…。

 そんな状況とは裏腹に、脚はよく回り、足の痛みも違和感も全くない。控えめに行って快調。足を引っ張るのは内臓。いつものブルベとまったく逆のパターン。どうしてこうなった。

 そんなことを考えながら起伏の激しい夜道を顔をしかめながら進む。雨はまたパラパラとふったりやんだりを繰り返しているが、そんなことは心底どうでもいい。とにかく、痛い。膝や足首なら触ったり薬を塗ったりすることもできるが、内臓には何のアプローチもできない。

 眉間のしわがそのまま痕になってしまうのではないかと思うくらい。唇もへの字に曲がったままペダルをこいでいるとふわっと意識が遠のく。おっといけない、眠気だ。そうだ、寝れば、寝れば治るかもしれないじゃないか。

 濡れたアスファルトに横たわると体温が奪われるのは前回の600で経験済み。屋根のある何らかの施設のところで 15 分タイマーをかけ、仮眠をとらせていただくと眠気は治まった、が、胸焼けは相変わらずである。

 物理的にと言うと語弊がありそうだが、前傾姿勢にならなければ胃酸は逆流しない。手を突っ張って、なるべく胃液が零れないような姿勢を心がけながら再度サドルにまたがる。次の休憩ポイントで何か食べ、太田胃酸を流し込もう。そのまますぐに自転車には乗らず落ち着くまで待てばいいんじゃないかなどと考えながら彼誰時を迎え、補給ポイントへ…ほきゅうぽいんと…でんき きえてるよ?

 セブンイレブン戸倉古舘店は仮設店舗であり、24時間営業ではないということは理解できた。が、ここから先女川のファミリーマートまで 52.4km コンビニなし。PC4 から数えると 77.6km 無補給で走れってのか。このあたりは震災でやられているんだから、と事前に営業時間も含めて調査したはずなのだが。(実は、ランドヌール宮城提供のルートラボに「ここは24H営業じゃない」と書いてあったというのは秘密)

 とはいえ、胸焼けの度合いは補給なんかそもそもできるレベルではないし、涼しい時間帯に走り抜けるしかないじゃないかとクランクを回し続ける。自販機があるところは一応押さえていたので、それに向かい、高カロリーといえばコーラだろ、とグビリ。いつもなら爽快な炭酸が食道を焼き尽くす。PC4 でレッドブル飲んで失敗したばかりではあるが、今は何よりカロリー・糖分を摂取できなければ死んでしまう。飴をなめても胸焼けが増加する現在、胃の中まで流れ落ちてくれるコーラは貴重品以外の何物でもない。

 周りはそろそろライトがいらないくらいに明るいが、私の気持ちは反比例して暗い。自販機から数 m 漕いだだけで吐きそう。いや、こういう時は吐くに限る、と指を喉に突っ込んで嘔吐。さっき飲んだコーラしか出てこない。いやいや、胃液くらいあるだろ?と再度チャレンジしても何も出てこない。胃の中が空っぽになってるという事?これはいったいどういう事なんだろう。

 吐瀉物の味をボトルの水で洗い流し、ため息を一つ。妻にメール。

漬物 「おそらく限界」
奥様 「よしよし よくがんばったね!どこまできた?」

 朝の5時にすぐメールが返ってくる、ということは、おそらく彼女も寝れてないのだろう。原因はもちろん私。心配をかけて、睡眠不足にまでさせてしまっている。これであきらめて迎えに来てもらったら、ランドヌールとして、旦那として、ダメ過ぎるだろう。

漬物 「まだがんばる 脚は回るのに胃腸がやられるなんて悔しくて」

 と、返し、スマートフォンを機内モードに。おそらく、この返事はいつでも迎えに行くよとかそういった類の優しいモノであろう。それを見たら、私は崩れる。

 空を仰ぎ見、路上のコーラを見。ボトルと指を水で洗い、あきらめてサドルにまたがる。下半身はどこも痛くない。次の補給ポイントまで 50km なら、不断の努力で培った腹回りの栄養タンクで何とかまかなえるだろう。

 補給食食べなければそれだけ胃や食道は荒れない。なら、少し何も食べずに頑張ればもしかしたら症状はよくなるかもしれないじゃないか。いや、そうなる―そんな想いが通じたのかどうか。とにもかくにもいつもの前傾姿勢ができるまでには回復できた。いわゆる、おじぎ乗りのスタイルだ。足に力を入れるのではなく、足裏にペダルからの荷重を感じるといった具合に回すとくるくると面白いようにまわってくれる。よしよし、この調子だ。

 路面を濡らす水が徐々に乾き始めたころ、釜谷トンネルへ入る。路面はガタガタのびちゃびちゃになっているが、側溝部分は荒れていない。

 後ろからの車をやり過ごすために側溝に寄った瞬間、総てがスローモーションになった。まず前輪が、ついで後輪が滑り、その動きにダイナパックDXの重さが乗り…アッと声を出そうとした瞬間に、路面に叩きつけられた、と同時に、頭の先数 10cm を車のタイヤがかすめていく。

 通常の時間軸に戻ると同時に右肩と背中に鈍痛が走る。自転車は無事か!?とがばっと起き上がると「だいじょうぶ?ねえ!」とドライバーが下りてくる。わざわざ止まってくれたようだ。えらく心配していただき、目的地まで載せていくという申し出まで頂いたけれど固辞し、こちらは謝り倒す。後で病院行きなさいよとの言葉を残してドライバーは去って行った。さて自転車と各種装備は無事なのか。

 メットは問題ない。ちょっと側面に傷がついただけだ。パンクもしていない。自転車のフレームには目に見える傷はない。ペダルは泥と傷だらけであるが、フラペなので問題ない。変速も大丈夫。右に倒れたにしては不思議だな、と目線を上にあげると、泥にまみれたダイナパックが見えた。そうか、これが支えになってディレイラーハンガーに影響を与えなかったのか。STI レバーも曲がっていない。これはまさに不幸中の幸い。身体は痛いけれど動けないほどじゃない。大丈夫。行けるイケる。

 よろよろと車道に戻り、クランクを回す。致命的なダメージがあったとしても女川まで行かなければどうにもできない。自転車で移動できるのは幸いだ。

 そうして、登ってきた朝日に目を眇めながら、よろよろと女川のファミリーマートを目指したのであった。

(続く)



 

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